感情を排した投資

株価の変動率が高くなると当然ながら投資環境はハイリスク・ハイリターンとなる。ハイリスク・ハイリターンとなると、どうしても投資家のストレスも高まってくる。

このストレスは投資家にとって厄介なものとなる。ストレスと投資収益は表裏一体のものであり、投資活動を続ける限りストレスは切り離せないものである。そこで、このストレスに関して、学者たちが研究した文献がありましたので紹介しましょう。

ケンブリッジ大学のジョン・コーツ氏とジョー・ハーバート氏は、ロンドンの株式市場で働く複数の男性フロアトレーダーからさまざまな種類のホルモンを採取、その量を測定した。その調査は、ホルモンの分泌パターンが市場の動きやトレーダー個人の成績(またはその両方)と関連があるかどうかだった。

研究の結果、2つのことがわかった。そのうちの一つはコルチゾールに関するものだった(コルチゾールはヒドロコルチゾンとも呼ばれる。副腎皮質ホルモンの一種である糖質コルチコイドの一種)。

ストレスを受けると、コルチゾールの分泌が促進されるという。肉食獣に襲われそうになった動物が逃げるときのようなストレスを受けた場合、コルチゾールは命を守る役割を果たす。だが、人間ならではの慢性的な心理的ストレスにさらされれば、長期的にコルチゾールの分泌量が増え、ストレス関連の疾患にかかるリスクが高まる。

では、トレーダーのコルチゾールの分泌量はいつ増えたのだろう。損失を出したときと思うかもしれないが、実はそうではない。コルチゾールの量が増えたのは市場の変動率が高いときだった。物事をコントロールできないときや状況が予測できないときに心理ストレスが生じることを考えると、非常に納得がいく。

コルチゾールは全身に影響するだけでなく、認知や感情、行動にも及ぶ。コーツ氏とハーバート氏はこの結果から、「コルチゾールの量が増えると、トレーダーの意思決定にどのような影響があるのか」という極めて重要な疑問を思いついた。

これこそコーツ氏とその同僚が今回の研究で取り組んだテーマである。この研究結果も米国科学アカデミーで発表された。

コーツ氏らはボランティアの被験者にコルチゾールを投与した。投与量を慎重に調整して、08年の研究で観察した中程度のストレス状態を作り出し、その後、被験者にリスクを伴う金融ゲームをしてもらった。

どのような結果になったのだろう。コルチゾールの量が一度上昇しただけでは何の変化も起きなかった。しかし、8営業日続けてコルチゾールを投与すると、被験者は金融ゲームをする際にこれまでとは違った行動を見せるようになった。期待収益が低くなり、同じような投資の仕方を繰り返すようになった。言い換えれば、被験者はリスクを取りたがらなくなったということだ。

これも過去の研究と一致している。被験者がある方法で難しい課題にうまく対応できるようになったとしよう。突然、その方法で対応できなくなったとしたら、被験者は新しい戦略を試みるべきなのだろうか。

おそらくそうだろう。しかし、こういう状況に直面すると、私たちは新しい方法を試さず、これまでのやり方に固執することが多い。幸運を祈ったり、勝負下着を身につけたりして、同じことを何度も繰り返す。繰り返すスピードは速くなり、回数も多くなる。

これまでの研究で、人間も実験動物もストレスとコルチゾールによってこのように物事に固執することが明らかになっている。こうした結果は気がめいるような生物学的事実にも裏付けられている。ストレスが続いてストレスホルモンにさらされると、意思決定において重要な役割を示す前頭葉が萎縮してしまうのだ。

市場の変動率が高くなると、ストレスホルモンの分泌量が増えて、その結果、人々はリスクを回避するようになる、とはどういうことなのだろうか。トレーダーにとってプラスなのだろうか、それともマイナスなのだろうか。

コーツ氏も強調しているように、最も重要なことは、我々は物事をできるだけ効率的に行う機械ではなく、あらゆる行動が生物学的な見えない手に操られている生命体であるということだ、と結論付けている。

以上が学者の研究結果であるが、要は「我々は物事をできるだけ効率的に行う機械ではない」と言うことであろう。我々は効率的に行う機械ではないため、結果的に相場では負けるということを証明しているのだろうか。

人間には感情がある。感情は機械ではない。よって効率的な投資はできないということなのだろう。では、この逆説的な行動では投資で成功を収めることができるということなのだろうか、つまり「感情を排した投資」である。

投資家は、これらの点を十分に踏まえて投資活動を行うべきであると思います

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